隣のおっちゃん

隣のおっちゃん

ほっとメッセージ

青春を賭け、共に大学日本一決定戦を目指した武ちゃん。

こんにちは。お元気でいらっしゃいますか?
厳しい寒さが続きますが、心がぽおっと温かくなる話をひとつ。
昨年の12月初旬のある居酒屋でのワンシーン。
「よくここまで頑張って育ててきたねぇ~。ホンマにすごいと思うわぁ~。
女手一つでいろいろあったと思うけど、再婚もせずに・・・。今日はその慰労と祝杯やぁ、乾杯!」
そう言い合って、お互いの目を見つめ合いながら、ささやかな2人だけの祝杯をあげました。
ちょっと怪しい光景?イヤイヤ違うんです。
彼女の名前は前川亜矢子さん。
もうすぐ卒業を迎える大学4年の立派な息子さんがいる素敵な女性です。
みんなから亜矢ちゃんと呼ばれているこの女性は、実は10数年近く前に未亡人となりました。亡くした夫の名前は前川武弘(たけひろ)さん。
私が大学時代に青春を賭けて「必死のパッチ」で打ち込んでいた、関西学院大アメリカンフットボール部の同期の人間です。彼もみんなから「武ちゃん、武ちゃん」と呼ばれ、誰からも愛される存在でした。
同じ兵庫県の伊丹出身で、帰り道も一緒だったりしたことから、彼とは他の同期のメンバーとはまた違った間柄でした。お互いに余りベラベラしゃべる方ではなく、何か感じることがあったら、ボソッと面白いことを言い合ったり、真剣な話をし合ったりしていました。「最近チームの雰囲気悪いなぁ~」「ボクらがもっと本気で出してやらんと、やっぱりあかんのんちゃうかぁ~」「ほんまやなぁ、やっぱり関学は4年がどれだけアホになって引っぱっていくかしかないでぇ~」「明日から空気変えよっ」「よっしゃ、そうしよ、そうしよ」
こんな会話を何度も彼と語りながら、時には逃げだしたくなるような練習や合宿を乗り越えて、私達は、最終ゴールである大学日本一決定戦甲子園ボウルに出場し、そこで勝つことを目標に日々切磋琢磨し合っていました。
そうやって共に青春を賭して励んだフットボール生活でしたが、人生の大きな挫折を、最終学年の4年生で味わうことになりました。私達の学年の時に、関学史上初めて、関西代表を決める最終戦で京大に17対7で負けてしまい、甲子園ボウル出場という夢もはかなく消えてしまいました。

試合後、二人で目に涙しながら、「やっぱり、甲子園にはそう簡単には行かせてくれへんなぁ~」と悔しさとむなしさの入り混じった会話をボソッと交わしながら球場を去ったことは、今でも心に焼きついています。

愚痴ひとつ言わず、過酷な宿命を粛々と受け入れて
誰にでも優しく温かい武ちゃんで居続けてくれました。

そんな青春のページを共に記録し合った武ちゃんでしたが、卒業後十数年して、恐ろしい難病を患うことになりました。筋肉が時間と共に萎縮して、全身が痩せ衰え、様々な部位が機能不全となり死に至るという壮絶な病でした。
運命とはいえ、神も佛もないものか・・・。残酷といえば余りにも無常な宿命です。
きっと自分が同じ立場になったら自暴自棄になって、醜態をさらけ出す気がしてなりません。

そんな過酷な宿命を武ちゃんは愚痴ひとつ言わず、粛々と受け入れ、日頃と変わらなくボソッと面白いことを言い、後輩からもイジられ、愛され、慕われ、誰にでも優しく温かい武ちゃんで居続けてくれました。

会うたびに痩せ細っていく武ちゃんを前にして、こちらが言葉につまるような状況でも、「変に気を使わんといてやぁ、いつも通りでいいでぇ~」と、あのいぶし銀の笑顔を普段通りにみんなに振りまいていました。
実はそんな彼には、一粒種の貴史(たかし)君という男の子がいました。彼が亡くなった時には小学5年生のサッカー好きのかわいい男の子でした。一人息子ゆえ、目に入れても痛くない子供だったと思いますが、生前は甘やかすことなく、大切に育てていました。
武ちゃんの死後は、誰からともなく同期で毎年連絡し合って、武ちゃんの亡くなった1月には毎年集まって、武ちゃんを偲ぶ会をやってきましたが、それはある意味、亜矢ちゃんと貴史君を励まし、労い、応援する会でもありました。

貴史君にとっては、私達がお父さんの代わりになる「隣のおっちゃん的な存在」になっていたのかもしれません。
そんな同期が集まった時の武ちゃんの武勇伝や人柄の素晴らしさなどを聞き続けるうちに、貴史君は関学の高等部に入ってから、アメリカンフットボール部へ入部することを決意しました。それには私達もビックリしましたが、一番感動し嬉しかったのは、お母さんの亜矢ちゃんだったと思います。
やはり「カエルの子はカエル」ですね。

細身であった体もみるみるうちに大きく立派になって、お父さんそっくりなっていったのは、言うまでもありません。私達にとってもそれはとても楽しみな成長でした。

とうとうやりよったかぁ~!
亡き父の無念をはらした貴史君に感謝。

そうして数年。時は昨年の12月16日の甲子園ボウルの日。亜矢ちゃんから嬉しいメールが届きました。
「ラスト2秒、関学が法政大を大逆転!20対17のスコアで勝利!甲子園ボウル優勝!!ガッツさん、ありがとう、ホントよかった(泣)」
私は大粒の涙をこらえるのに必死でした。
「貴史君やりよったかぁ~!武ちゃん、貴史君とうとうやってくれたぞぉ、我々の無念をらしてくれたぞ~」
そんな言葉を涙をポロポロ流しながら、天に向かって私は武ちゃんにささやいていました。
本当に嬉しい嬉しいニュースでした。冒頭の居酒屋のワンシーンは、甲子園ボウルに出場することが決まった事を祝う食事会でしたが、その時、亜矢ちゃんが、貴史はいつも自分が勝った喜びより、私達同期のメンバーが喜んでくれているのかをいつも気にしていたと言っていました。
気配りの武ちゃんそっくりです。

「貴史君、ホンマにありがとう。立派になったなぁ、感動したわぁ。
お父さんもきっと天国からあのいぶし銀の笑顔で、涙しているわぁ。お父さんはこれからもずっと貴史君の人生の甲子園ボウルを見守っていると思うから、一緒に願晴ろ(がんば)なぁ」

少し落ち着いたら、私は彼と二人でじっくり酒を酌み交わしながら、こんな話を語り合いたいと思っています。やっぱり、仲間、スポーツってホンマにいいですね。

合掌

Guts

●追伸

その後、1月3日に東京ドームにて、学生日本一の関学大と社会人の日本一オービックシーガルズ(こちらも私の出身チームです)との真の日本一決定戦がありました。残念ながらラスト30秒で大逆転され敗れましたが、見事な戦いぶりでした。本当に貴史君を始めとする4年生もよく頑春ってくれました。たくさんの感動や勇気を逆にいっぱいもらいました。大感謝

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