#11 デュマさんの絵日記

#11 デュマさんの絵日記

映像クリエーター 西嶋航司 PaleBlueDot 君が微笑めば、 #10 こだまの便り

#11 デュマさんの絵日記

あるホテルの最上階、スイートルームの扉をやや緊張しながらノックした時のことです。中から現れたフランス人の紳士は私の顔を見るなり部屋の奥へと誘い、外を指差すのです。
「窓の外をご覧、あそこに鳥が巣を作っているよ」と、そっと私に教えてくれました。
鼻メガネをかけ柔和な表情を浮かべながら、私と一緒に窓の外を眺めるこの男性は、フランスの老舗メゾンの5代目当主。もちろん初対面です。
一瞬にして緊張の糸は和らぎ、目的であるインタビュー撮影を始めることとなったのです。ただし、準備してきた質問の多くは、この場の空気にはどれも硬く陳腐なものとなっていくのが私には感じられました。
そこで口をついて出てきたのは、「あなたのことを、なんとお呼びすればよいですか?」という、ごく平易な質問でした。 

通訳を介して返ってきたのは、「デュマ、デュマさんでいいですよ!」とニコリ。
その後のインタビューは、想定したものとは道程こそ変わったものの、「なぜこの方にお話を伺いたかったのか」ということを、自分の中に問い直す時間となりました。
伝統を重んじるメゾンを守る経営者でありながら、多様であり革新を恐れない。
そこには「大切なものを見失わない」という、デュマさんの「一人のヒト」としての鋭くもあり温かなまなざしが存在していました。

インタビュー中、通訳が私に伝えてくれている間、デュマさんはしきりと革張りのメモ帳に何かを書きつけています。何を書いているのかと思えば、なんと目の前にいる私とカメラマンの姿をスケッチしていたのです。その前のページには、巣作りする鳥の姿もしっかりと残されていました。
この時、インタビューという語源が「inter(相互)+view(見る)」とされることを、私は改めて思い返したのを憶えています。

番組のオンエアーも終わった後のことです。メゾンの広報から一通の手紙が届きました。中には、撮影当時はモノクロだったデュマさんのスケッチに鮮やかな色彩が添えられた「絵日記」が入っていました。そこには、たった一度の出会いであっても相手の心を真正面から見つめようとする、静かで深い視線が注ぎ込まれているようでした。

この年、メゾンが掲げたテーマは「エトワール(星)」。たとえ空が曇っていても、そこにはいつも星の輝きがあることを忘れない、という想いです。
何かを見失いそうになった時、「デュマさんの絵日記」の中に描かれた私が、今も私に問いかけてきます。「窓の外をご覧、」と。

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