温泉と大地、そして人とのふれあいで本来の自分を取り戻してゆく「湯治」は最も古くて新しい癒しのカタチです。
宮城県北西部、山形と秋田の県境に位置する鳴子温泉郷で100年ほど続く温泉宿「旅館大沼」の五代目湯守(ゆもり)を務めます大沼伸治と申します。
鳴子温泉郷は約1300年の歴史を持つみちのく有数の古湯で、湧き出る源泉数は約400本。泉質においては日本にある11種類の泉質のうちなんと9種類まで揃う、全国でも特出した温泉力とバラエティに富む温泉地です。
大地からこんこんと湧き出る温泉はまさに地球が生み出す大自然のエッセンス。
太古から野生の動物や人類の心身を癒してきた地球からの贈り物を、この地で守る役目という意味をこめて「湯守」の肩書きを使っています。
被災された方々の心身を癒した「湯治」。
尊き人々のつながりも生まれました。
昨年、3月11日に未曾有の大震災が東日本を襲ってから約1年が経とうとしています。多くの犠牲者、原発事故をはじめとする甚大な被害を及ぼしたこの大震災の爪痕はまだまだ癒えそうにもありません。
宮城県沿岸部の南三陸、東松島、女川などで肉親や家屋を失った多くの被災者が行き場を失いました。その方々が二次避難した場所の一つが、昔から漁民達が「湯治」に通っていた鳴子温泉郷です。
約半年間、鳴子温泉郷はその本来の湯治場機能を果たし、小さなお子さんからお年寄りまで、たくさんの被災者の心身を癒しました。
「湯治」とは、温泉地に滞在し、繰り返し温泉に入ることで大地からの力をいただき、時間をかけて心身を調整してゆくことです。まさに人間という自然の一部が温泉という大自然と一つになり、その本来の姿を取りもどしてゆくことだと私は考えています。
鳴子温泉郷に避難していた被災者の方の中には、精神の安らぎはもちろんのこと、神経痛やアトピーが治癒するなど、身体的な湯治効果が現れた人々も少なくありませんでした。
昔から海や田畑という自然から糧を得て暮らしていた農漁民たちは、生活の中に温泉を取り込み、自らの心身の健康を保っていたのです。
田植え後の「さなぶり湯治」、真夏の暑い時期の「丑湯治」、稲刈り後の「稲上げ湯治」1年中で最も寒い1月から2月に、2週間から1ヶ月ほど行う「寒湯治」など、1年の労働サイクルに合わせて行う「湯治」は、まさに日常の過酷な労働から解放されのんびりするバカンスであり、予防医学の役割を担っていたのです。
最大で1300名ほどの被災者が二次避難していた鳴子温泉郷には、全国のみならず世界中から慰問や支援の手がさしのべられ、鳴子は志をもった老若男女の一大交流の場となりました。
そこには現代社会で失われつつある、人と人の心のふれあいがあり、震災という国難をともに乗り越えてゆこうという多くの人々のつながりが生まれました。
奇しくも、このたびの大震災でその価値を再認識された「湯治」ですが、残念なことに現在は「湯治」という言葉も読めず、意味すら知らない人々が増えています。
かけがえのない「いのち」の存在であることを思い出して。
私は今この絶滅寸前の「湯治」という日本古来の保養文化を現代に伝えようと様々な取り組みを行っています。
その一つが地域の耕作放棄地を開墾し、そこに地元由来の地大豆を植え育てる「地大豆湯治@鳴子温泉郷」です。
小さな畑に全国各地から肩書きも年齢も様々な人たちが集まり、種まきから収穫、味噌作りまで1年を通じて一緒に汗を流します。
太陽の下、畑仕事でかいた汗を温泉で流すというのはまさに日本人の労働と癒しの原点です。
こうしたシンプルですが本質的な行為をすることで、食べ物や温泉の大切さ、ありがたさが、頭で理解するのではなく、心と身体全体で感じられます。
現代は脳化社会といわれ、身体を使うことよりも圧倒的に脳を使うことが多くなっています。
また、時間を利益とひきかえに、仕事に追いまくられて生きる現代人の姿はまるで経済の奴隷になってしまったかのようです。
そうした中、バランスを崩しがちな心と体をまるごと温泉に沈め、自分を自然という大きな『いのち』の中の、かけがえのない一つの『いのち』の存在であることを今一度思い出すことが必要ではないでしょうか?
本来の自分に戻る、もうひとつの自分の居場所がみつかるかもしれません。
旅館大沼では、現代人が湯治を無理なく楽しめるように、様々な工夫を行っています。
その一つが食事付きの湯治です。発酵玄米と野菜を中心とした一汁三菜膳でカロリーも少なく、日頃体内にためこんだ老廃物などを排出しやすい食事です。特に美容や健康に意識の高い女性に人気です。
忙しい現代においては、家族や友人と日程を合わせて旅することもなかなか難しいものですが、行きたいときこそ自分のタイミング。思い立ったら、えいやっ!と一人で湯治にでかけるのも良いものです。
そこでは思わぬごほうびが待っているかもしれません。
旅館大沼では、お一人旅も大歓迎です。
忙しい日常をひととき離れ、温泉と大地、
そして人とのふれあいで本来の自分を取りもどしてゆく「湯治」は最も古くて新しい癒しのカタチ。
皆さんもぜひ一度「湯治」を体験してみてください!もう一つの自分の居場所がみつかるかもしれません。
◆鳴子温泉郷 貸切露天風呂の宿「旅館大沼」
旅館大沼は源泉掛け流しの庭園貸切露天風呂など8つの個性的なお風呂が楽しめます。
ご予約の際には、「プロ・アクティブのコラムをみました」と一言お伝えくださいね。
何かいいことがあるかも・・・!?
旅館大沼について詳しくはHPをご覧ください。
https://www.ohnuma.co.jp/