「温故知新、奇をてらわない料理」が人から人へ

「温故知新、奇をてらわない料理」が人から人へ

食アドバイザー 田口三江子が語る気づき発見コラム 常食への旅

No.9:「温故知新、奇をてらわない料理」が人から人へ

渋谷の焼肉店はスタッフやお客様のお陰で半年で売上げが倍になり、新しい店長候補が現れ、私はその現場を離れてカフェの立て直し、居酒屋リニューアル、弁当事業やカフェ居酒屋の立ち上げなど、沢山の経験をさせて頂き、あっという間に4年の歳月が流れました。

その流れの中で、不思議なご縁があり、全く予想していなかった「独立」をすることになりました。「スタッフは誰を連れて行ってもいいよ」と、背中を押してくれたのは、5年間お世話になったオーナーでした。そして、多くの方の協力を得てオープンしたのが、表参道の割烹料理屋でした。

今思えば、無謀以外の何物でもありませんでした。「知らない」ということは恐ろしいことです。私は、割烹の業態は、そもそも料亭から暖簾分けでやっと出せるもので、手を出してはいけない領域のものだったということをしばらくたった後で知った程のバカものでした。

1年半程はとにかく苦戦しましたが、味わい深い自家製ポン酢で召し上がって頂く、名物、「極上天然ぶりしゃぶ」が人気を呼び、雑誌やテレビの取材が入り、有名人も来てくれるようになりました。
温故知新、伝統に新しい息吹を吹き込んだ、奇をてらわない料理が、自然と人から人へと伝わっていく手ごたえを得られたことは何よりの財産でした。

スタート時は板前2人、ホールは私だけ。そのうちに板前3人に。ホールが足りず、夫にも手伝ってもらい、店はテンヤワンヤの大繁盛かのように見えました。
しかし、20坪で家賃70万円+高い人件費や食材コストをどうすることもできず、3年で店を閉めざるを得ない状況に追い込まれました。

夫も私も、恥ずかしながら3年間1円も給料を取れず、貯金は底をつき、残ったのは膨大な借金でした。
店を運営することと経営することがいかに違うかということを思い知りました。
人様にご迷惑をかけてしまったことで責任が重くのしかかる一方、これからどうすれば?と途方に暮れるばかりでした。

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