日本の手仕事 「手引き真綿」。
お蚕さんに敬意を払い、その命の育みから生まれた繭と真摯に向き合い続ける日本屈指の名工にお会いしてきました。
「モノづくりをする人の心意気に触れる」ということは商品に携わる私にとって、魂を揺さぶられる引き金の一つ。今回は、長年お会いしたい!と強く願っていた手仕事の匠のお一人にお会いすることが叶いました。バイヤーとして、心底報われる瞬間です。
その方のお名前は「北川茂次郎」さん。御年88歳。
小さなシルクの繭玉を職人二人がかりで息をあわせて引き延ばす「手引き真綿」と呼ばれる技術における日本屈指の名工です。
「お蚕さんが体を張って出した繭を 無駄にせんようにやらなあかん」
真綿(まわた)と呼ばれているものは、コットン(綿)ではなく、絹(シルク)のこと。
そして手引き真綿の技術は、約250年前から養蚕地である滋賀県を中心に脈々と受け継がれてきました。
〝真の綿〞と書く真綿は、その名のとおり、きめ細やかで美しく、繊細なふわふわ状態。
この手引きした真綿を何枚も重ねて背負う「ねこ半纏」は厳寒地域で昔から愛されてきたものの一つです。
そして、極薄に引き延ばされたシルクの層をミルフィーユのように重ねて作られた真綿の布団は、暖房器具などが充実していなかった時代から人々の睡眠を支えてきました。
「10本の指に力を入れて、厚さにムラができないように、ぐーーっと均一に一気に引っ張る。
お蚕さんが体を張って出した繭を無駄にせんようにやらなあかんさかいにな」とおっしゃる茂次郎さん。力を籠める指の先端は携わってきた歳月を物語るかのように力強い太さと艶をたたえています。
お蚕さんに敬意を払い、その命の育みから生まれた繭と真摯に向き合い続ける茂次郎さんは、とても粋で魅力的…。技や経験もさることながら、使う人の気持ちに寄り添う愛情の深さが伺い知れます。
そのお人柄に触れた方は間違いなくファンになってしまうカッコよさです。
真綿の特性を最高に生かしてくれる素材。
真綿とある素材のコラボです。
「お蚕さんの口の形からぴゅーっと出た糸はストローとおんなじで中が空洞。だから、蒸れた空気を逃がしてくれる。
真綿は息をしているのと一緒。ほんまにようでけとる。だからこそ、ほんまは高密度の織物でカバーして蓋をしたらあかんのや。呼吸している真綿には、その呼吸を妨げず、吐いた空気をさっと解き放ってくれる生地でないとな」。
しかし実際は、シルクの高密度織りなど通気性に優れていないカバーで覆ってしまうことが多いそう。
「実は誰も今までやっとらんけど、真綿の特性を最高に生かしてくれる素材があってなぁ…」。
それは、真綿が呼吸するように、のびのびと力を発揮する、真綿とある素材のコラボです。
真に良いものを追求してたどり着いた集大成ともいうべき「呼吸する真綿の掛布団」、そしていつも手元に置けて、肩や膝を温めてくれる「呼吸する真綿のハーフケット」。
希少な取り組みのため、数のご用意は限られてしまいますが、プロ・アクティブのみでお取り扱いさせていただけることとなりました。(感無量!)
ハーフケットで赤ちゃんをくるんであげると、ぐずっていた赤ちゃんもスウスウと寝てしまう心地よさだそう。
繕って直して使う日本人ならでは感性、
懐かしさやぬくもりも一緒にお届けできたら…。
工房にお伺いした際、40年前に購入されたお客様から真綿打ち直しのご依頼品が届いていました。
冬だけでなく夏にも使える真綿布団、汗をかいては陰干しし、頻繁に風を通して大切に使われていたよう。
真綿自身の厚みは減っているものの、モノの価値は失われていませんでした。
購入後もこうしてお直しできる安心感も有り難いことですよね。
繕って直して使う日本人ならではの物に対する感性、懐かしさやぬくもりというものも一緒にお届けできたらと思います。
先人の知恵の詰まった伝統的な芸能や技術は、近くにあると見慣れてしまいがち。真の姿に気がつかず、衰退目前になって、ようやくその大切さに気づくこともあります。
同じ日本人として誇らしく素晴らしいモノづくり。
そのモノがもたらしてくれる恩恵に気づく敏感な心を持ち、いつも心の眼でよいものをキャッチしていきたい、お客様に余すことなくお届けしていきたいと心新たに感じた一日でした。
この冬、北川茂次郎さんが丹精こめてつくる呼吸をする真綿掛布団とハーフケットの仕上がりを楽しみにしていてくださいね。