色の専門家・草木裕子の色どりメッセージ (21)
夏を迎えるこの季節は、陽射しの眩しさに思わず手で光を遮ったり、目を閉じたりしてしまいますね。
私たちは勝手なもので、暑い季節になると日陰を探し、寒い時には日向が恋しくなります。
先日、飛行機に乗る機会があり、雨が降り出しそうな曇り空の中での離陸となりました。
でもしばらくして灰色の厚い雲を抜けると、そこには目が覚めるような真っ青の空と、一面真っ白な雲海が広がっていました。
灰色を抜けると白と青の世界…。
曖昧なことを表現する時によく「グレーゾーン」という言葉を使います。
白黒はっきりしない、どちらとも言えない様子で、少しネガティブな意味にも使われます。
時には黒や白に近いグレーとの表現もします。
中途半端なイメージではありますが、このグレーの意味を角度を変えて考えてみると、黒や白のどちらにもなれると言えます。
陽射しが強い時には光を遮る雲で日陰を作り、そこで涼を感じます。
また、暗い雨雲に覆われた時には少しでも光が入ると明るさを感じる世界を見つけることができます。
どちらも心がほっとする瞬間を誘います。
そして、赤や青など有彩色のはっきりとした色に少しグレーを混ぜると、ソフトなやさしさを醸し出します。
元の色の主張が和らぎ、安堵感を与えるのです。
これは、白や黒と同じで、はっきりとした色には緊張感があるからです。
一面真っ黒な空間にいると、不安な気持ちになるのは想像できると思いますが、それが真っ白であっても、緊張感に覆われて落ち着きがなくなってしまいます。
ですが、その中にグレーを少し入れることで、和らぎの空気感を作ることができます。
グレーの役割は、はっきりしないイメージだけでなく、人の心を緩めることに繋がるのです。
だから曇り空に包まれた日も、何となく穏やかな気持ちになれるのでしょう。
梅雨の季節を迎えたら、グレーの空で心安らぐ時間を過ごしていただければと思います。