祖母を失った悲しみこそが、私の今の活動の大きな原動力になっている。
「病室の 真白き中に 響きける 音なき音の 点滴の粒」
今から約30年前に、祖母の看病をしながら作った短歌。無機質な病室の中、身体中にチューブやセンサーを取り付けられ「スパゲティ症候群」状態で死んでいく祖母の姿を見て、私は身を切るような辛さを感じた。
沢山の愛をくれた祖母の死は、私の人生の最大の悲しみとなった。
奇遇にも、同じ年に設立された日本ホリスティック医学協会で、統合医療の世界的な権威であるアリゾナ大学教授のアンドルー・ワイル博士の講演を聞く機会を得た。博士の、病気を治すのは薬でも医者でもなく、本来誰もが持つ自然治癒力であるという話に私は深く感動した。しかし、まさかその20年後、我が故郷で博士と再会できることになるとは夢にも思わなかった。
日本で鍼灸と食養を学び、アメリカのマクロビオティックの学校でスタッフをした後、生まれ故郷で自然治癒力を活性化するTAO塾を設立。そして、ある時「ワイル博士が心身医学関係の学会の基調講演で来日予定なのだが、プライベートで阿蘇を小旅行したい。ついては、博士に生命力あるホンモノの素材を使った伝統食を提供してほしい」との依頼を受けたのだった。まさかあのタイム誌の表紙に二度もなった彼がTAO塾に来ることになるとは!
博士にはTAO塾のSelf learning & Self healingのコンセプトに共感して頂き、大きな励ましをもらった。地元の巨石群遺跡を案内し、TAO特製菊芋入りマクロビオティックランチを食べてもらう。私が、巨石の配列や岩に刻まれたシュメール古拙文字などの解説をすると、博士は「It’s a JOMON world!」と叫んだ。山を下りて、TAO農場で梅の木の記念植樹。私が「いつか梅干にしてお贈りしますね」と言うと、博士は「ではぜひ梅焼酎も」とすかさず返答、さすが役者が違う。
ワイル博士との思いもよらない嬉しい再会。それは、天国へ行った祖母からの贈り物だったに違いない。祖母を失った悲しみこそが、私の今の活動の大きな原動力になっている。