人間目線と自然界目線
ボクが開いている料理教室の中に「発酵料理教室」があります。
今回はそこでお伝えしている発酵の世界についてお話ししたいと思います。
ボクが発酵に興味を持ったのは、「寺田本家」という酒蔵の23代目当主 寺田啓佐さんの『発酵道』という本を読んでからです。
その中で微生物の振る舞いや自然界のなりわい、発酵する生き方に言及されているのですが、その本を手にしてから数年後に、縁あって寺田本家で、1週間ほど住み込みで蔵人体験をさせていただく機会がありました。そこで学んだことは、腐敗せずに発酵しているというのは、“常に変化し続けている”ということ。発酵とは変化なんですね。
ボクらの身体も、常に食べた物と入れ替わっていると言われています。半年後には全く違う細胞に入れ替わって別人になっているという説も。だから「変化を恐れる」とか「変わるのが怖い」というのは、そもそも自分の存在自体を否定していることになります。そう考えると、特に変化の多い今はますます発酵が進んで、喜んで仲間を増やしながら進化できる時代だとも捉えることができるのではないでしょうか。
寺田本家24代目当主 寺田優さんと
お酒のタンクをかき混ぜる。寺田本家の蔵人体験修行で体験。
味噌、醤油、みりん、酢、酒を造っている発酵蔵の人達は、決して「自分が造っている」とは言いません。特に、機械で温度などを管理できるようになる以前の蔵では、材料や天候や微生物の状態に合わせて人が手を入れていくので、「造っているのは、自然界」という感覚を強く持っています。最近は自分で味噌や醤油を造る人も増えているので、共感できる人も多いのではないでしょうか。
そんな中、平成30年に文科省が発表した「Society 5.0 に向けた人材育成」という資料に個人的に気になる一文があります。
「我々が目指すべき社会は、経済性や効率性、最適性だけを追求した無機質なものではなく、あくまでも人間を中心として、一人一人が他者との関わりの中で 幸せや豊かさを追求できる社会であるべきであろう」。・・・これは、今までと何が違うのでしょうか?
人間は地球に住む生きとし生けるものの一種に過ぎないという謙虚な視点を、まずは大人が思い出す時なんだと思います。