第11話「増えると減る」

第11話「増えると減る」

子ども心に衝撃を受けた「それ」は・・・

人生で初めて「それ」に出会ったのは小学生の時でした。
法事の席に並んだ仕出料理の中に「それ」がありました。エメラルドのようなつやつやした濃いグリーンに小さな黒い粒々がカエルの卵のように浮かんでいる、初めて見る不思議な果物です。果肉はスプーンですくえるほど柔らかく、ねっとりとした食感とともに、わずかな酸味と爽やかな甘さと香りが口の中に広がりました。
「う、うまい!」世の中にこんなにおいしい果物があるのかと子ども心に衝撃を受けた「それ」は、当時まだ珍しかったキウィでした。
それから私にとってキウィは特別な果物になりました。

2月の一冊 「せかいいちのいちご」
林木林・作 庄野ナホコ・絵 <小さい書房>

「せかいいちのいちご」 林木林・作 庄野ナホコ・絵 小さい書房

「当たり前」の反対は…

物語

氷の家に住むシロクマに手紙が届きました。「イチゴお届け致します」。イチゴって何だっけ?あっ、あの可愛い赤い実のことね。シロクマはドキドキしながら待ちます。そして届いた一粒だけのイチゴ。なんて可愛くていい香り。生まれて初めてのイチゴ。ようこそ愛しの一粒ちゃん。シロクマはイチゴを見つめ粒々を数え、香りに包まれて眠ります。

次の冬もイチゴが届きました。今度は2粒!冬になるたび届くイチゴの数は増えていきました。びっくりするほど上等なイチゴ。今年は100個食べたかしら。でもね・・・イチゴが増えるほど、喜びは減ってしまう。

ソムリエのひとこと

いま私はいつでもキウィを買って好きなだけ食べることができます。でも一番美味しかったのは?と聞かれたら、子どものころ初めて食べた「あの」キウィだと答えるでしょう。キウィは特別な果物から身近な「当たり前」のものになりました。キウィが変わったのではありません。私の感じ方が変わったのです。どんな美味しい物でも、いつも食べてると特別感がなくなるように、日常的なものは「当たり前」になっていきます。
現代は便利なものが「当たり前」に使える時代。電気が供給されていること、蛇口から水が出ることに感謝するのは災害の時だけになってしまっている気がします。「当たり前」の対義語を調べると「感謝、ありがとう、有難い」などが出てきました。「当たり前」に意識を向け、感謝することができたら、幸福度はもっとアップするのではないかと感じました。

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