絵本は実際に手に取って「絵を読んで」くださいね。
絵本を紹介する文章を書く機会が多いのですが、絵を言葉で説明するもどかしさを毎回感じます。絵本は「絵を読む」本なのに、肝心の絵を見せないで説明するのですから、本当にこの良さが伝わっているのか?いつも自問自答しながら書いています。(私がこんな事を言うのは変かもしれませんが)このコラムを読んでその絵本を理解した気にならないでください。ぜひぜひ実際に手に取って「絵を読んで」くださいね。
どうしてこんなに長い前置きを書いているのかというと、今回の本が言葉だけで伝えるのが難しい、本当に絵本らしい絵本だからであります。でもぜひお伝えしたい本なのでご紹介させてください。
5月の一冊 かんけり
石川えりこ 作 <アリス館>
小さな勇気をもらえる1冊
物語
引っ込み思案な女の子ちえちゃんは、いつも助けてくれるりえちゃんに誘われて、「缶けり」に参加します。
ちえちゃんは怖くて、缶をけって誰かを助けたことが一度もありません。友達が次々とオニに捕まっていき、最後は自分ひとりになってしまいます。
「わたしがりえちゃんを助けなきゃ」。
ちえちゃんは勇気を振り絞って隠れ場所から飛び出して行きます。
ソムリエのひとこと
物語を要約すると「女の子がはじめて缶けりで缶をけることが出来た」以上です(笑)。
わずかなページ数で、ちえちゃんの性格描写、普段の行動パターン、りえちゃんとの関係性などが誰にでも分かるように描かれ、残りはすべて缶けりの描写にあてられています。
ちえちゃんが隠れ場所から飛び出して缶を蹴るまでの数秒間が6場面(全32ページの内の12ページ)を使って描かれる場面は迫力があり、まるで映画を見ているかのようです。この数秒間の表情の変化も見どころです。そして最後の文字が無いページの絵から読み取れる、ちえちゃんの成長。あの数秒間に確かに何かが変わったのです。