大学時代の友人から絵葉書が届きました。
暗がりの焚火の灯りにぼんやりと友人の顔が写っています。青いターバンを巻きつけて。
「何が、いったい、どうして!この年になって砂漠が俺を呼んでいる」
長年務めた会社を辞め、彼はアルジェリアの奥、サハラの真ん中にある壁画が有名な
タッシェル・ナジェールにいました。
トゥアレグ族のガイドと共に野営する彼の瞳は砂漠の中の灯火に輝いていました。
私の中の砂漠のイメージはサンテグジュペリの「星の王子様」「夜間飛行」
「南方郵便機」「人間の土地」などから感じた砂のイメージが根底にあると思います。
ブエノスアイレスを目指して飛び立った飛行機から眺める北アフリカの砂漠。
彼の本を読みながら、同時に眺めていたサハラの写真集。
頁の中でうねる曲線。ベージュ色の起伏の連続。銀の地平線。
夕陽に染められた、異星のような大地。無彩色のようで、究極なまでにカラフル。
虚無の空間にある真実。音の無い世界に吹き荒れる風。
たったひとり、青い衣装を纏った男の鋭い視線。
いつの間にかサンテグジュペリの、自伝のような小説、あるいは小説のような自伝と、
リアルなサハラの写真が勝手に融合し始め、私の砂漠を作り上げて行ったのかも知れません。
その後で観たいくつかの映画のシーンも、まるで砂が砂に重なり合うように、
確固とした砂漠のイメージが私の中に作られて行ったのでしょう。
「シェルタリングスカイ」のモロッコの砂漠。
「イングリッシュペイシェント」のサハラ。
「スターウォーズ」の砂漠の星、タトュイーン。
あれはチュニジアの砂漠。
さまざまな要素の砂が少しずつ降り注ぎ、いつしか、唯一無二の茫漠とした砂漠を作り上げて。
暑い夏がやってくると、人はより涼しい避暑地を目指すものですが、
私は、もっと熱い、いや、それどころか灼熱の砂漠に想いが飛んでいきます。
絵葉書をくれた友人の心の奥底から湧き上がってきた、得体の知れない砂漠への焦燥感が
暑い夏の昼下がり、私の心の中にも育ち始めています。
Miura Music Collection 7月のおすすめ
映画
『イングリッシュペイシェント』
≪サントラ版≫
今月のお薦めは、私自身も強く惹かれる、砂漠の只中の壁画に残される「泳ぐ人」から始まる映画「イングリッシュペイシェント」のサントラ盤です。
とてつもなく悲しく、美しい、ああこの形容詞ではまるで不十分な、壮絶な愛の物語がサハラ砂漠を舞台に語られる映画は必見です。
でも、映画を観なくてもこのCDはそれだけで完璧に愛の世界を奏でています。でも、やはりこの映画は必見です。