第三話 アルノルフィーニ夫妻の肖像画

第三話 アルノルフィーニ夫妻の肖像画

「アルノルフィーニ夫妻の肖像画」(1434年)
ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵

絵画が楽しくなる『色』のお話 ヤン・ファン・エイク「アルノルフィーニ夫妻の肖像画」

今回は、北方ルネサンスの画家、ヤン・ファン・エイクの作品から。
「アルノルフィーニ夫妻の肖像」(1434年)は、それまでの宗教画や歴史画とは違い、裕福な市民の様子が描かれています。
この絵には、様々なシンボリズムからの読み解きがありますが、今回は色彩からのメッセージを

まず目に留まるのは、夫人の衣装の緑色(マラカイト・グリーン)。
中世では、緑色は市民階級の服にはあまり使われなかった色で、特に男性にはほぼ使われませんでした
しかし、ブルゴーニュ地方の特別な日、5月祭などで使われた緑色は、恋人たちが一緒に森に出かける幸せを描く文章もあり、ここでは緑色が「恋心」を表すのです。
また、貴族などの女性の晴れ着に使われた緑色は染色技術が難しく、自然から得られる緑色の染料が少ないため、モクセイソウなどの植物で黄色に染めてから藍染料で青色に染めて緑色にする、という二重の手間を要し、高価なものであったことがわかります。

愛情(赤)に包まれた人生の新スタート(緑)を表現した、心温まる作品。

この時代は恋愛から結婚へ、という考えはあまりなく、政略結婚が一般的で、結婚や婚約(この絵はどちらの説もあり)のシーンが、恋心を表す緑色で描かれるのは、二人が心から恋して結ばれたことを表現していると思われます。
また、当時女性を描く際には、お腹の辺りを少し膨らませ、妊娠中のように描くスタイルが一般的で、出産ともつながります。
フランス王室では、出産時、産室のベッドの天蓋やカーテンなどを緑色にする習慣があったようです。

緑色のキーワードである新芽から、生命の誕生や新しい季節。背景のベッドや天蓋は、補色の赤で描かれ、緑色を強調しています。
二人の姿は、まさに愛情(赤)に包まれた人生の新スタート(緑)を表現した、心温まる作品だと思います。

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