創元推理文庫は、その当時の私たちにとって、
ある意味、知的、冒険的、反逆的、ヴァガボンド的(放浪的)な
重要なステータスだったように思えます。
14歳くらいの少年にとって、それは未知の国への扉であり、
時を飛び越え、魔法の王国へ鍵であり、
その扉を、鍵をいくつ探し当てたか、持っているのか、知っているのか、
そんな自尊心を満足させてくれるバロメーターでもありました。
推理文庫というからには推理小説がメインではあるのですが、
したがって、もちろんアガサ・クリスティもあるし、コナン・ドイルもある。
でも真のポイントはSF分野をどのくらい極めているか、にかかっていました。
その中でもレイ・ブラッドベリは大人っぽい感じを漂わせていて、人気の作家でした。
「火星年代記」や、
「何かが道をやってくる」(ああ、タイトルだけでもいまだにしびれます)
そして「刺青の男」
「華氏451」
(これは書物が自然発火する温度―摂氏220度―F・トリュフォーが映画にしています)
「二人がここにいる不思議」という本の中には
『生まれる前というのがまずひとつの状態で、生きているというのが二番目、
それを通りぬけたあとが三番目だ」という台詞があります。
彼の言葉で私がとても気に入っているのは、
どの本だったかも記憶は定かではないのですが、
『高い崖から飛び降りているうちに羽を使って飛ぶことを考え出す生き方』という
なんとも人生を言い当てている、もしくは人生を瞬間としてしか捉えていない、
でも、とても楽観的に、前向きに、諦めない態度で、
それでいてユーモアを漂わせながら、みたいなちょっとふざけた台詞が好きです。
その彼の作品の中でも「10月はたそがれの国」は私の大のお気に入りで、
何度も読み返したものです。
青く澄み切った青空の向こうに巨大な闇が広がる魔法の国があると思うと、
それだけでわくわくしてきます。
Miura Music Collection 10月のおすすめ
NIYAZ
『ナイン・ヘブンズ』
私たち日本人にとって、魔法の国のイメージといえば、エキゾチックな雰囲気を漂わせたイスラムのドームとミナレット(尖塔)のシルエットが思い浮かびますが、それを音で表すとこうなります、というのがNIYAZのナイン・ヘブンズです。
(ただし、このCDは好みが分かれますので、十分お気をつけて)