ヘミングウェイのパリ

ヘミングウェイのパリ

「もしきみが幸運にも青年時代にパリで暮らすことができたなら、
その後の人生をどこで過ごそうともパリはきみについてまわる。
なぜならパリは移動祝祭日だからだ」

ヘミングウェイの言葉です。

パリジャンたちは8月のパリを気前よく観光客たちに明け渡します。
口うるさい、自慢げな住人達は避暑と言いながら、さらに熱い太陽を求めて南下して行きます。

夜の9時を過ぎても暗くならない、乾いた夏。
いま、パリにいるということだけで体の底の方から湧いてくる高揚感。
8月の旅人は、パリを満喫します。

世界中からお上りさんたちがやってきて、偉大なる建造物を見上げては賛嘆し、
街をあるくだけで石畳を見つめ歴史を感じ、パリは称賛の嵐に包まれます。

ただ多少おだてられたくらいでは機嫌をよくしてくれるわけでもなく、
パリはその住人達が留守していても、何も変わらず、どこか澄ましていて、
少し突き放しているような風情を保ちながら、それでもどんな異邦人でも受け入れてくれます。

ヘミングウェイのように若くして、長くパリに暮らしたわけではありませんが、
私もピレネー山脈のふもとにある小さな、穏やかな町の大学で1年半過ごす前の1ヶ月間、
パリに滞在したことがあります。

それは留学とは名ばかりの遊学だったのでしたが、
バックパックを背負い、髪を伸ばし、髭をたくわえ、最後のヒッピーを気取り、
ヨーロッパ中を歩き回った、最初の1ヶ月でした。

フランスパンと、バターとハム、そして安い赤ワインだけで何日も過ごし、
本を読み、映画館に通い、カフェにたむろし、ゴロワーズをふかした日々は、
とても愛おしく感じます。

興奮と熱狂のひと夏をパリで過ごしました。
だからへミングウェイの言いたいことが少しだけ分かります。
パリがくれたもの、パリが奪ったもの。
こころと言うよりも、体に染みついたパリの匂い。
けっして忘れることのできない空気感が、いつでもついてまわるのです。
まさに移動祝祭日のように。

Miura Music Collection 8月のおすすめ

シャルル・アズナブール
『ラ・ボエーム』
≪シャンソン≫

放浪者のように自由な生活を楽しむ芸術家たち。と解説的に言うよりも「ボヘミアン」とそのまま言い表した方が良いかも知れません。
お金はないけれど、二人幸せに、パリの片隅で暮らしていた青春を歌うのは、ピアフに見出され、800曲以上もシャンソンを作り、80ヶ国以上でコンサートをしてきたシャルル・アズナブールです。


プロ・アクティブの視聴ルームでもお聴きいただけます。

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