雑誌やYouTubeで本や著者の紹介を連載しているサトケンが、あなたの中にすでにあるものを思い出し、生きる歓びを見出す本とのご縁を繋ぎます。
select6
ミニシミテ
田中 泯(著)
<講談社>
えんぴつが歩き、踊るように書かれたエッセイ
「存在感」。この一言がこれほど似合う人もそう多くはいないだろう。
世界的ダンサーの田中泯さんをボクが初めて認識したのは最近で、2022年の泯さんのドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』を観てからでした。40歳の時、畑仕事で作り上げた身体で踊ることを決め、どんなジャンルにも属さない泯さんの、その求道者のような生き様にボクは魅せられ、意識するようになってから、俳優としてはたびたび拝見していたことに気づいたのでした。
初出演で代表作になった山田洋次監督の映画『たそがれ清兵衛』からハリウッド映画までいくつもの映画やNHKの朝ドラ等々。ここ最近ではカンヌ国際映画祭で役所広司さんが最優秀主演男優賞を受賞した作品、ヴィム・ヴェンダース監督の映画『PERFECT DAYS』でホームレス役で出演されています。
10年以上にわたって連載された、山梨日日新聞でのエッセイから抜粋されて編まれた本書では、世にはびこる常識を疑い、多数の論理や忖度から生まれるものにストレートな感情と意見をぶつけています。
また、山田洋次、ヴィム・ヴェンダース、大江健三郎、坂本龍一、樹木希林などの著名人や、師匠の土方巽、名もなき人々との交流からの学びや気づき、世界各地で踊りながら、その土地から伝わってきたもの、地球の歴史や自然から感覚的に受け取ったものなど、その独自の存在感に至った理由の片鱗に触れられた気がします。
時代の閉塞感や同調圧力に飲み込まれずに自分らしく生きたい人にオススメ。
泯さんの「カラダ」を通じて発せられ、えんぴつが歩くにまかせて紡がれた言葉の数々は、詩的なリズム感があり、思いもよらぬ表現もあり。読む人の「カラダ」に深く沁みていくことでしょう。
関連映画
名付けようのない踊り
[ 上映時間114分 ]
2022年
監督:犬童一心 出演:田中泯
世界的なダンサーとして活躍する田中泯の踊りと生き様を追ったドキュメンタリー。
1978年にパリでデビューを果たし、世界中のアーティストと数々のコラボレーションを実現し、俳優としても活躍する田中泯さんと親交を重ねてきた犬童監督が、ポルトガル、パリ、山梨、福島などをめぐり撮影。どんなジャンルにも属さない泯さんのダンス。そのぶれない生き方を紐解いていく。Amazonプライムなどの配信でも観られます。
PERFECT DAYS
[ 上映時間124分 ]
2023~2024年
監督:ヴィム・ヴェンダース 出演:役所広司、田中泯ほか
ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースと日本を代表する俳優 役所広司の美しいセッション。
素晴らしい!感動!これぞ日本の精神!という感想と、さっぱり意味がわからないという感想に大きく分かれる作品。個人的にはこの映画に共感できる人が増えると世の中もっと平和になると思う。ラスト3~4分の役所広司さんの表情に次々に現れる記憶や時間や感情にどんどん引き込まれてしまいます。